
Larry Liu
Managing Director, Deputy General Manager, Chief Client Officer, Risk Management Segment Leader
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China
アジア太平洋地域におけるデータセンター投資は、2028年までに5,540億米ドルに達すると予測されており、AIの導入拡大と大量のデータ処理に対応する次世代インフラ、いわゆるハイパースケールの成長によって、前年比20%の驚異的な成長を遂げています。¹
データセンター建設ブームは、テクノロジー業界の地図を塗り替えつつあります。しかしこの急成長は、建物オーナー、テナント、運営者 にとって複雑なリスクをもたらします。主要なリスクとして、複数の請負業者間での建設中のリスクと労災補償の管理、安定性と持続可能で信頼できるエネルギー源の確保、サイバーセキュリティに対する責任やコンプライアンスへの備えが挙げられます。
課題
個々の施工業者がそれぞれ独自に建設工事保険を手配する場合、以下のような問題が発生する可能性があります:
結果として、仮にある業者の保険が不十分だった場合、その責任はプロジェクトオーナー側に降りかかり、保険会社とのトラブルや訴訟、工期の遅延へと発展するリスクがあります。
また、土地の権利に関するリスクも無視できません。土地の登記制度の信頼性、正確性および透明性が低い地域や国では、開発用地の所有権が明確であることは、サブリースの問題、境界線の侵害、登記詐欺などのトラブルを回避する上で不可欠です。所有者側の不備があれば、工事の遅延、資産喪失、高額な訴訟リスクにつながる恐れがあります。
リスク管理戦略
各業者・下請け業者が個別に保険加入するのではなく、オーナー管理型保険プログラム(オーナーコントロール保険プログラム/OCIP)により、プロジェクト全体の保険を一本化することができます。このプログラムは、プロジェクトオーナーまたは保険仲介会社が運営し、対象となる業者を登録、管理します。工事期間中の保険カバーを一貫して提供します。OCIPの導入により、保険の重複を減らし、補償範囲のギャップも解消しやすくなり、特に大規模プロジェクトにおいては安全性とコスト効率の向上につながります。
土地の権利関係に不備や曖昧さがある場合、重大な法的・財務的リスクに発展する可能性があります。こうしたリスクに備えるには、トランザクションリスク保険と呼ばれる特殊な保険があり海外では手配例があります。一方、登記制度が国家主導で厳格かつ正確で透明性が高いと評価されている日本では、こうした保険の手配はあまり一般的ではありません。
IEA(国際エネルギー機関)は、2030年までにデータセンターの世界全体の電力需要が945テラワット時(TWh)に達すると予測しており現在の2倍以上となる見込みです。² マレーシアでは、データセンターによる電力需要が11,000メガワット(MW)を超えることが予測されており、同国の既存発電能力の40%以上を占めることになります。³
課題
この前例のない需要増加は、送電網やバックアップシステムに深刻な負荷を与えることになります。加えて、不安定な再生可能エネルギーやリチウム系蓄電池への依存は、新たなオペレーション上の複雑さとリスクをもたらします。また、異常な高温(熱波、酷暑)は冷房による電力需要の急増をもたらし、電力供給の一時的な遮断によるデータセンター設備の過熱・機能停止、さらには停電による操業停止につながる恐れがあります。
加えて異常な高温は建物構造にも影響を与え、干ばつが続けば水資源が枯渇し、冷却機能の低下とさらなる障害を引き起こす可能性があります。
実際、2022年に韓国のSKグループの施設で発生した火災では、通信インフラが大規模に停止し、推定2,750万米ドルの損失をもたらしました。⁴ また、2023年初頭には、シンガポールにあるマイクロソフトのデータセンターで冷却障害が発生し、東南アジア全域でサービスが停止しました。⁵
リスク管理戦略
データセンターが屋上ソーラー、蓄電池、次世代冷却装置技術などの長期電力戦略を導入する中で、電力供給の安定性、コスト変動、持続可能性とともに火災に対する安全性に関するリスクへの対応も求められます。
適切な計画とシステム単位での評価を通じて、企業はエネルギー関連のリスクを的確に管理し、データセンター運用におけるレジリエンスを高めることができます。
「データセンターのテナントのシステムが、建物の中央管理システムの脆弱性を突かれて外部から侵害された場合、その損害の責任は誰にあるのか? 一方の過失が他者の財務損失につながった場合、補償条項はどう機能するのか?」
現在のデータセンター運用における最大の課題のひとつは、サイバーセキュリティに関する損害賠償責任の曖昧さです。6
特にハイパースケールデーターセンターでは、開発者、建物オーナー、テナント、運営者が共通のインフラを利用しネットワークで連係する場合、ひとつのサイバーインシデントが、オペレーション面、法務面、財務面において連鎖的なリスクを引き起こす可能性があります。2021年から2023年の間にアジアで発生した複数のサイバーアタックでは、共用インフラの脆弱性を突かれたことにより、複数テナントの機密データが侵害されました。7 こうした事例を通じて、サイバーインシデント時の所有権と責任の所在に対する関心と懸念が高まっています。このような不確実性と複雑性に対処するには、サイバー保険および、テクノロジー業務過誤(テクノロジーE&O)保険を統合的に導入した保険プログラムを構築することを推奨しています。
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1 Asian Business Review (2024) APAC data centre capacity to double by 2028: Moody’s
3 TheEdgeMalaysia (2024) Centre Stage: Boon or bane, tough conversations on data centres
4 Data Center Dynamics (2022) South Korea’s government to grill Kakao after data center fire cripples key service
5 W.media (2023) Microsoft’s Singapore Data Center Experience Outage due to Cooling Units failure
6 Reuters (2024) Cyber attack compromised Indonesia data centre, ransom sought
7 SCworld (2023), Two data centers used by major tech firms hacked
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China