保険会社は、潜在的租税債務に関する表明保証に加え、租税証書や税支払誓約に対する保険の提供を考慮します。後者については、保険会社が (保険証券上に)必要開示情報を定義し、保険契約者に対して損失軽減義務を課します。
この種の(他の表明保証と)包括的に補償を提供する保険契約の下では、特定された租税債務に関する補償が除外されることがあり、その場合は、* 特定租税債務のみに対応する保険が検討されます。(*注:日本国内では不可)
表明保証条項に係る交渉は、M&A 取引交渉における最も重要なプロセスです。まず、買収対象事業に関す る重要情報を売主が開示し、買主が 買収案件の価値と関連する債務を適 切に評価します。
買主は通常、売主が売却時に提供し た表明保証と補償条項に関して契約 上の責任を要求することによって、自 身の立場を守ろうとします。 売買契約中に、買主が売主または 保証者に対して表明保証違反に係る 請求申し立て手続きが定められます。 また、表明保証違反の際の売主また は保証者の補償の上限についても同様です。
従って、表明保証違反が発生すれば、 売主は買主に対して「補償責任」を 負います。この補償責任は、売買契 約において合意された補償期間に従 い終了しますが、時効の長い租税債 務に関する補償期間は 6 ~ 7 年に及 ぶこともあります。
場合によっては、 買主は売主に、買収価格の一定割合 を担保としてエスクロー口座に預託 するように求めることがあります。こ れは売主の期待資本収益率に大きな 影響を与えるため、特に撤退や別の 新規事業の立ち上げを考えている売 主にとって懸念となることが少なくあ りません。また、偶発債務を負うこ となしに投資を回収し、投資家に資 金を還元する「クリーンエクジット」 を目論む金融投資家や PE ファンド等 の投資家に深刻な問題をもたらすこ とにもなるでしょう。
買主の視点では、表明保証保険が付 保されていない表明保証や補償条項 は安心とは言い難く、違反が顕在化 した際の損害てん補の保証はありま せん。そのため、買主は多くの場合、 借入によって十分な資金を調達し、 効率的に買収を組成できるよう適切 な表明保証の組み合わせを必要とし ます。
こうした中、M&A 取引の買主と売主 による表明保証保険(「レプワラ保険」 とも呼ばれる)を利用するケースが 増加傾向にあります。これにより、取 引の当事者は、売買契約に含まれる 表明保証や租税債務に係る補償債務 に保険を付保することが可能になり ます。表明保証交渉に保険を活用す ることで、クロージング後も売主が引 き続き負うべき補償責任に対する買 主・売主間における認識の隔たりを埋めることができるのです
表明保証保険は、株式譲渡契約等の売買契約における売主の表明保証違 反リスクを対象とします。その目的は、 売買契約における表明保証リスクを保険に反映し、可能な限り売買契約の条件と同等にすることにあります
表明保証保険は、これまで知られていなかった売主の表明保証違反に起因する損害をてん補し、売主と買主いずれかが被保険者になることができま す。
表明保証保険は、「売主用保険(seller's or vendorʼs policy)」と「買主用保険 (buyer' of purchaserʼs policy)」に大別されます。
保険会社は、潜在的租税債務に関する表明保証に加え、租税証書や税支払誓約に対する保険の提供を考慮します。後者については、保険会社が (保険証券上に)必要開示情報を定義し、保険契約者に対して損失軽減義務を課します。
この種の(他の表明保証と)包括的に補償を提供する保険契約の下では、特定された租税債務に関する補償が除外されることがあり、その場合は、* 特定租税債務のみに対応する保険が検討されます。(*注:日本国内では不可)
英国、シンガポール、香港、オーストラリア、米国、バミューダおよび日本の高格付け保険会社が表明保証保 険を引き受けています
適用免責条項は保険契約によって異なるものの、常に必要最小限の水準にとどめる交渉がされます。
標準的な免責条項は、大まかに以下の通り分類されます。
上記に加えて、不十分な買主デュー・ ディリジェンス や 売 主 ディスクロー ジャーを理由に免責条項が追加され ることがあるものの、追加実施される デュー・ディリジェンスにより、保険会社がこれらの取引特有のリスクを引き受けやすくなることも少なくありません。
表明保証保険の補償期間は、売買契約の補償期間に合わせて設計することが可能です。
通常、一般的な表明保証や事業に係る表明保証については 24 カ月~ 36 カ月で、本質的表明保証と潜在的租税債務に係る表明保証については 6 年〜 7 年がこの保険契約で設定可能な最大期間となります。
(リスクが相対的に高い北米取引を除き)一般に、買主用・売主用のいずれも、保険料は保険支払限度額(保険 金額)の 1%から 3%の適用料率範囲で設定されます。
保険料は主に個別取引に特有な要因によって決まります。そのためこの目安から外れることもありますが、 適用保険料料率に影響する可能性が高い要因は以下の通りです。
大まかな目安として、保険会社は通常、 何らかの保険による補償を検討する前に、企業価値の 1%から 2%に相当する累計額を自己負担額として要求しますが、これは取引によって異なります。
場合によっては、売買契約に定める免 責基準額を反映した補償の保険設計も可能です。
保険料同様、設計可能な保険支払限度額は主に、準拠法、業種、取引の構造によって決まります。
*3 億米ドルまでの限度額であれば入手可能( * 注: 本邦発行保険証券の際は 1.5 億米ドル 程度)ですが、それを超える引受も入手可能な場合があります。
取引進捗度合いにより開示可能な情報も異なりますが、情報が多いほどよ り確度の高い概算見積りが期待できます。
保険購入動機と見積り依頼要件についての事前の協議も重要です。これにより、固有のリスク領域や具体的な保険購入目的に沿った概算見積りの算出が可能になります。
有効な概算見積りの入手に際しては、表明保証条項と補償条項を含む最新の売買契約ドラフトと共に、最低以下の情報提供が必要となります。
保険料の概算見積りから最終引受条件 の確定見積りに移行するためには、引受保険会社によるデュー・ディリジェン スレポート等の重要文書を精査が必要です。
さらに、被保険者とその専門アドバイザーとの電話会議等により、買収対象事業内容、ディスクロージャー とデュー・ディリジェンスのプロセス、 および提供される表明保証や事業関連 の問題点に関する両当事者間の交渉について協議する必要があります。
引受保険会社は取引の規模と複雑さを考慮し、リスク分析のために外部の法律事務所を起用します。このリーガ ルレビューは保険会社の引受審査の一 環として行われ、その費用は顧客の負担になります。
レビュー開始前に費用の見積りと費用の上限が顧客に提示さ れ、保険契約に至った場合は多くの場 合、これらの費用は保険料の一部として相殺されます。 このレビューの目的は、被保険者のリーガルアドバイザーが実施済みの詳細デュー・ディリジェンスを重複実施することではなく、取引の複雑さにもよりますが、数日から長くても 1 週間 で完了します。
保険契約を発効させるために必要な期間は通常、全体で 3 週間から 4 週 間程度が一定の目安です(次の項目の「スケジュールとプロセス」参照)
買主は、大規模な多国籍コングロマ リットで、M&A 取引の経験が豊富。 一方、表明保証と補償を求められた個人売主はその概念自体に不慣れだった
個人売主は、退職資金に充当する予定の取引による売却益を将来の偶発債務から隔離するリスク移転手段を求めていた。
個人売主は売主用保険の付保を決定し、マーシュは個人売主をリスクからより手厚く保護するために、取引固有の免責条項を最小限に抑えた 1,000 万米ドルの売主用表明保証保険を設計・組成した。
PEF(ターゲット企業の過半数持分を所有)は買主(別の PEF)の要求を満たす表明保証に応じる意図はなく、創業家が代わって表明保証と補償に応じることを求められた。
創業家売主は、取引金額の 10%をエスクロー口座に預託するよう、買主に求められていた。
売主は買主にエスクロー預託金額を取引価格の 1%への減額を提案し、マーシュがその金額を超える 9% 相 当額を補償する 4,300 万米ドルの売手用表明保証保険を手配することにより、売主にとって魅力的な取引とソリューションになった。
買主は、対象企業を買収するために複数の入札者が参加するオークションに応札した。
買主は、競争入札案件を落札するためにできる限り売主にとって魅力的な入札条件の提示を望んでいた。
落札する可能性を最大限に高めるために、買主はマーシュに相談の上、必要とする保険支払限度額での買主用の保険契約を検討した。マーシュは保険会社 3 社の協調引受による、総額 1 億 5,000 万米ドル支払限度額の買主用保険を設計・組成した。