世界が2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す中、二酸化炭素排出量削減への圧力はかつてないほど高まっています。アジアでは、シンガポールが炭素税を引き上げ、日本も同様の措置を提案するなど、各国政府が関連政策を強化しており、企業による排出量削減を促しています。石油・ガス、鉄鋼、セメント、石油化学など、脱炭素化が困難な産業においては、CCSが解決策の重要な要素となりつつあります。
アジア太平洋地域だけでも、CCSへの投資額は2050年までに6,220億米ドルという驚異的な額に達すると予測されています。しかしながら、資金調達と最終投資決定(FID)の達成は依然として大きな障害となっているようです。世界ですでに公表済みのCCSプロジェクト数は、実際に動き出しているプロジェクト数をはるかに上回っており、2030年までに実現が見込まれる回収能力のうち、実際にプロジェクトが進行中またはFIDに達したものはわずか20%しかありません。第三者からの資金調達の難しさは、リスクの誤解、不明瞭な法規制、未成熟な市場といった要素が重なり、プロジェクトの遅延や中止につながっています。結果的に、脱炭素化への取り組みの阻害要因となっています。
CCSプロジェクトに伴うリスク、それらをどのように管理できるかを理解することは、資金調達を可能にし、プロジェクトを推進する上で極めて重要です。
現在の炭素価格では、CCSの開発コストが高すぎる
CCSプロジェクトへの資金提供は、必要な投資規模が大きいため、依然として限られています。東南アジアでは、CCSのコストはCO2の貯蔵あたり60〜120米ドルと推定されており、適切に管理されなければ1トンあたり約150米ドルに上昇する可能性があります。地域の炭素価格(取引コスト)が2030年までにシンガポールの予測値である1トンあたり50〜80シンガポールドルに上昇したとしても、依然として開発コストと取引コストには大きなギャップが存在し、CCSプロジェクトの実現可能性に影響を与える可能性があります。
長期的な収益予測の不確実性から来る投資家の信頼低下
CCSプロジェクトは、複数の要因による資金面での不確実性に直面しています。多額の初期投資が必要となるだけでなく、将来の収益は規制や政策の変更に大きく左右されるからです。プロジェクトオーナーは、変動の激しい炭素価格と法規制、国境を越えたCO2の輸送と貯蔵に伴う技術的・法的な複雑さにも直面しています。これらの要因は、進化する炭素市場や広範な経済変動と相まって、リスク認識を高め、資金調達ギャップを拡大させ、長期的な収益の評価と確保を阻害しています。
CCS施設における技術のパフォーマンス不足
投資家にとって最大の懸念事項の一つは、二酸化炭素回収技術が期待通りに機能しないケースです。こうした技術の規模拡大はアジアにとって未知の領域であり、世界の大規模プロジェクトの50%以上が設計容量を下回る稼働率で運用されています。
CCS施設の性能が低いと、二酸化炭素の回収量が減少し、収益と炭素クレジットの創出が減少してしまいます。これは契約や資金計画に支障をきたし、プロジェクトを順調に進めることが困難になります。さらに、回収から輸送、貯蔵に至るまでの二酸化炭素回収プロセスの複雑さが、リスク配分を複雑にし、あらゆるリスクをカバーする保険ソリューションを見つけることが困難になってしまいます。
CCSプロジェクト全体のリスクを早期に特定し、関係者間で適切に配分することは、とても重要です。不確実性を低減し、保険の適用性を向上させ、投資家の信頼を強化し、プロジェクトを予定通りに進め、長期にわたって信頼性の高い運用を確保することが可能になるからです。
プロジェクト初期段階:投資家の信頼を強化する
リスク移転分析:初期段階のリスク評価と規制変更への対応は、リスクエクスポージャーを定量化し、明確なリスクプロファイルを確立するのに役立ちます。これにより、投資家や金融機関はプロジェクトの実現可能性をより明確に把握できるとともに、どのリスクが保険でカバーできるか、また他のリスク移転ソリューションが必要となる可能性があるかを特定できます。不確実性を測定可能で管理可能なリスクに変換することで、組織は資金を調達し、投資家の信頼を築くことができます。
設計・開発段階:気候変動へのレジリエンスを構築する
気候リスクモデリング:次の段階では、特に気候変動によって特定の災害の頻度と深刻度が加速する中で、災害リスクを理解することが極めて重要になります。多くのCCS施設は異常気象や地震活動にさらされる地域に位置する可能性があり、これらの危険性を早期に評価することで、開発者はインフラの耐性を強化し、緩和策をプロジェクト設計に組み込むことができます。
プロジェクトの初期段階でリスクエンジニアリング設計レビューを通じた設計上の耐性を実証することで、重要な資産を極端な自然災害から保護し、保険加入の可能性を高め、長期的に組織がより有利な条件を確保できるようになります。
建設工事の遅れ:建設関連のリスクは、建設総合保険や操業開始遅延保険によっても対処でき、プロジェクト開発期間中の追加的な財務保護を提供します。保証ソリューションは、流動性を維持しながら契約上の義務を履行するための資金を確保することで、財務安定性をさらに強化することができます。
運用段階:技術パフォーマンスと収益源を保護する
事業継続:運用開始後、プロジェクトは物理的な損傷など、運用を阻害するリスクに直面します。事業中断リスクを補償する利益保険は収益源を保護し、性能保証パラメトリック保険と炭素クレジット保険は、それぞれ技術的な障害による損失と炭素クレジットの無効化による損失といった、より特殊なリスクに対応することが可能です。
東南アジアの大手エネルギー企業が、提案中のCCSプロジェクトに関連するリスクと保険要件の評価をマーシュに依頼しました。クライアントは、リスク配分の不確実性、変化する規制枠組み、気候変動リスク、そして国境を越えたオープンソースのバリューチェーンにおける保険市場の前例の少なさなど、複数の課題に直面していました。
マーシュは包括的なリスクおよび保険可能性評価を実施し、詳細なリスクマップを作成するとともに、追加的なリスク軽減策を特定しました。この調査では、各国の準備状況、規制上の考慮事項、およびプロジェクト全体の実現可能性についても評価しました。
その結果、クライアントは以下のことを実現できました。
マーシュは、炭素リスクに対して市場全体を包括的に捉えたアプローチを採用し、組織がCCSプロジェクトに関連するリスクを理解、定量化し、適切なリスク移転ソリューションを設計できるよう支援しています。当社の多分野にわたる専門チームは、プロジェクトオーナー、開発者、投資家と協力し、プロジェクトファイナンス案件を支援しています。マーシュは、世界各地およびアジアにおける数々の著名なCCSプロジェクトに助言を提供し、計画段階からクロージングまで、炭素貯留・回収プロジェクトのバリューチェーン全体にわたるリスクおよび保険適格性評価、保険プログラム設計、継続的なリスク管理において、クライアントおよび政府を支援してきました。当社のモデリング、アドバイザリー、アクチュアリー、分析業務は、マーシュリスク、ガイ・カーペンター、マーサー、オリバー・ワイマンといった事業部門の専門家を結集し、ビジネスを成功へと導くサポートをしています。