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エグゼクティブ・オピニオン調査2022の解説

世界のビジネスエグゼクティブが感じるリスクとは

2022年11月7日にリリースされたエグゼクティブ・オピニオン調査(EOS)は、世界のビジネスエクゼクティブ約1万2000人が回答した今後2年に亘ってビジネス成長を阻害するリスクをまとめています。

世界経済フォーラムでは、2006年より毎年『グローバルリスク報告書』を発刊している。マーシュ・マクレナンは同フォーラムの戦略パートナーの一社として、本報告書の制作に携わっている。また、2008年版よりマーシュジャパン/マーシュブローカージャパンは日本語版の制作を担当している。毎年1月中下旬に、同フォーラムはスイスの景勝地ダボスで年次総会を開催する。これがいわゆる「ダボス会議」であるが、その直前に本報告書が一般公開されるのが慣例となっている。

 本報告書には主要なリスクの分析に加えて、2つのリスク意識調査の分析結果が掲載されている。1つは学術界・財界・政界等々からアットランダムに選定された900名余りのリスクスペシャリストが答えたGRPS(グローバルリスク意識調査)。もう1つがGRPSを補完するEOS(エグゼクティブ・オピニオン調査)で、こちらは世界のビジネスエクゼクティブ約1万2000人が回答している。

 2つの調査は回答者の態様ばかりでなく時間軸が違っている。GRPSは、「今後10年以内に複数の国や産業に重大な悪影響を及ぼす可能性のある不確実な出来事や状態」、EOSは「今後2年に亘ってビジネス成長を阻害するリスク」を質問としている。ともに同フォーラムの事務局が選定した35のリスク(2022年版は37)からの選択式をとっており、リスクは大きく「経済」「環境」「地政学」「社会」「テクノロジー」の5つに分類されている。

 

ここでは、2022年11月7日に一般公開されたEOSの集計結果を紹介したい。
EOSは2022年4月から8月にかけて122か国の12,000人以上のビジネスリーダーの意見が反映されている。各国の最も懸念するリスク上位5位が発表されるほか、先進国と新興国とのリスク意識の対比等もされており、世界のビジネスリーダーが今何をリスクと感じているか、地域や国ごとにどんな特色があるかがわかる。

 

図表1

図表1「ビジネスに影響を与えるグローバルリスク上位10位」は、全世界のビジネスリーダーが懸念するリスクを総合して順位付けしたものだ。

 ここでの重要な視点として、

・多くの国でインフレ圧力が起きており、潜在的にグローバルベースで景気後退の局面にある中、経済リスクはビジネスリーダーにとって主要なリスクと位置づけていること

・経済の不安定さが生活費を脅かし、雇用や暮らしなどの社会リスクへ波及・連鎖していること

・地政学上の緊張状態が、本格的な争いを引き起こしており(ロシア・ウクライナ危機)、ビジネスリーダーはさらなる対立の高まりを憂慮していること

などが言及されている。

 

図表2

2022年の調査結果から見えてくる特徴をいくつか解説する。
1位の「地経学上の対立」をはじめ経済リスクが上位に挙がっている。地経学とは、政治的な対立をもとにした地政学に経済を組み入れた概念で、経済制裁や関税など貿易の不均衡を意図的に作ることなどを意味する。日本の地経学上のリスクとしては、中国との貿易、中国と台湾の対立、さらには米中の経済的な覇権争いの影響などが挙げられる。

 2位の「自然災害と異常気象」は、それまでは独立したリスクとして取り上げられていた自然災害と異常気象を今回ひと括りにしている。両者はそもそも根本的な成り立ちが異なる点に注意しなければならない。自然災害は文字通り自然発生的に起きた災害を指すが、異常気象は地球温暖化などの事象がなければ起きなかったかもしれないリスクである。たとえば、2018年に関西国際空港を直撃した台風21号は、海面温度の上昇により低気圧が極大化するという過去にない異常気象がもたらした災害だった。

 日本の自然災害のうち、間違いなく発生するのは地震である。ところが、2021年は1位だった自然災害が、2022年には5位以内に入らなかった。こうした意識調査の特性として、直近に発生した大きな災害等に回答者の目が向きがちになることだ。しかし、国内での台風被害、火山活動、震度5弱以上の地震の増加などにより、2022年は2位に再浮上したものと思われる。

 3位の「長期化する景気停滞」は2022年の1位から連続して5位以内に入った。ビジネスリーダーとしては当然重きを置くリスクだろう。
4位の「極端なコモディティショックや相場の乱高下」で言うコモディティは原材料を指す。昨今の穀物やエネルギー源などの乱高下には2つの要因がある。1つはロシア・ウクライナ危機、もう1つが新型コロナウイルス感染症である。日本の場合は後者の影響が大きかったと思われるが、今度、前者が日本経済に与える影響も色濃く増していく可能性もある。

 5位の「戦略資源の地政学上の争い」は今回新設されたリスクである。戦略資源の1つはエネルギーだ。中東は以前から戦略資源として各国との交渉に原油をいわば人質のようにして使ってきたが、今はそれにLNGや穀物が加わった。ロシアはトウモロコシや小麦など穀物や肥料・飼料の輸出量が多く、それらを戦略資源として利用してきた。今回、それらの供給が止まったことによって、各国に大きな影響をもたらした。

 

 全世界のビジネスリーダーの回答を総合した「グローバルリスク」順位(図表1)において「急激な/長期的なインフレ」が1位になっていることは日本との違いとして特徴的だ。日本は最近でこそ物価上昇が起こっているが、それまでは他国から取り残されてデフレが続いていた。一方、世界はスタグフレーション(景気後退局面においてインフレーションが同時進行する現象)に近い状態になっていた。経済リスクに国境はない。実際にグローバルの影響は日本にも及び始めている。

 世の中には各種のリスク報告書があり、それぞれ個性がある。EOSはあくまでビジネスエグゼクティブ個人の意識をもとにしたものだが、これを叩き台にしてグローバルリスクの議論をさらに高めていただきたい。

 

(EOSの結果についても反映されている『グローバルリスク報告書 2023年版2023年版ははこの春発行を目指して現在鋭意制作中です。)