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保険を活用したリスクマネジメント実践のポイント Vol.1

リスクマネジメントの高度化が求められる日本企業

リスクマネジメントの高度化が求められる日本企業

1996年の保険業法の改正による自由化以前は、リスクマネジメントの核となる損害保険に工夫を凝らす余地が少なく、多くの企業は横並びで保険を手配していました。当時、地震リスクのように保険会社から敬遠され、保険手配が困難なリスクについては、「保険によるリスク転嫁ができないリスク」と捉えて、多くの企業はそのリスクを自己保有していたのです。というのも、たとえば大都市圏で地震が起こると多くの場合、自社だけでなく同業他社にも同程度の損害が発生し、自社の競争力だけが下がることにはなりません。地震による損害はいわば不可抗力であり、それによって自社の株価が下がったとしても株主は納得してくれるに違いないと考えていたところがありました。

しかし自由化以降、全社一律であった商品内容や保険料率について損害保険会社同士の競争が始まり、日本の保険会社は、以前なら引受を断っていた地震リスクなどについても引受を検討するようになりました。現在は、地震のリスクや操業中断による利益喪失リスク、サイバーリスク、M&A関連リスクなど、かつては保険手配できないとされていた多くのリスクが保険化できるようになっています。

一方で、自由化の進展は、保険の買い手である企業にとても頭の痛い問題を引き起こしました。保険の選択肢が増えたことで、企業は自社が抱えるリスクをこれまで以上に細かく分析し、さまざまなリスクについてリスクマネジメント施策の検討が求められるようになったのです。保険が手配できるリスクについては、まず保険を購入するかどうかを検討して、手配可能であっても保険料が高額であったり、保険カバーが不十分なことなどを理由に手配を見送る場合は、保険に代わるリスクマネジメント施策を考え、なぜそれが保険よりも合理的かを社内外に説明する必要があります。(マーシュが実施した、地震に対するリスクファイナンス対策等のアンケート結果を図1、図2に示します。)

また近年は、為替の変動や重要な人材の流出、不祥事の発生による企業評価の低下など、自由化後の今でも保険化できないリスクも増えています。それによって多くの企業は、リスク軽減策やリスク回避策、事象発生後の危機管理体制など、リスクマネジメントの高度化が求められています。

リスクマネジメントの高度化は外国人株主対策でもあります。本格的な高齢化社会へと突入し、海外売上比率を高めることが多くの日本企業の命題となっています。一方で、海外進出拡大に伴って、外国人株主比率が高くなっている企業が増加しています。多くの外国人株主は、大地震のような企業の事業活動に深刻な影響を及ぼすリスクに対し、十分なリスクマネジメント施策を要求します。

東日本大震災の後にマーシュが行った調査(図3)では、日本の大手企業よりも日本で事業展開している外資系大手企業のほうが、地震保険の購入比率が格段に高いという結果が出ました。外国人株主比率の高い企業は、少なくとも外資系企業と同じレベルのリスクマネジメント施策を検討する必要があるでしょう。

日本企業による海外企業のM&Aが増加したことで、高度なリスクマネジメントを迅速に実践することが求められるケースも増えています。M&Aは、企業(グループ)全体を取得する場合と、事業の一部のみを取得する場合の2つがありますが、悩ましいのが事業の一部取得によるM&Aです。

 

企業全体の株式取得をする場合は、通常、買主は保険契約も含めて売主企業が持つ契約関係をそのまま引き継ぎます。しかし、事業の一部だけを取得する場合、特に外資系大手企業の特定事業については、売主企業のグループ全体を対象にした包括的な保険プログラムでカバーされていることが多く、M&A後は利用できなくなるケースが多いのです。買主としては、その事業が無保険となる状況を避けるため、買取完了直後から有効となる保険プログラムを用意する必要がありますが、それが簡単ではありません。

 

複数の国や地域で事業展開する海外の大手企業は、世界のどこで、どの会社に損害が発生しても、グループ全体で包括的にカバーされるグローバル保険プログラムを導入していることが多いのですが、日本ではグローバルに事業展開している企業でも導入企業は意外と少ないのが実態です。全世界のグループ法人をカバーできるグローバル保険プログラムを導入していれば、M&Aで新たに海外事業を取得しても、自社の保険プログラムへの変更で対応できることが多く、その利点を再確認しておきたいところです。

 

リスクマネジメントの高度化を図る上で、グローバル保険プログラムの設計・運用は大きな鍵になるでしょう。