欧米と日本でのリスクマネジメント体制の違いとして、大きく次の3点があります。
(1) 本社レベルでのリスクマネジメント機能
日本企業では通常、本社はリスクマネジメントに強力な権限や財務上の責任を持ちません。そのため、リスクや保険に関する全社的なガイドラインが設定されていない場合が多く、保険の購入に関する意思決定は各国・各事業部の判断に委ねられています。その結果として、グローバルレベルでのバランスシート保護のための優先課題の洗い出しが不十分なケースが目立ちます。
(2) リスクマネジメントに関する意思決定へのさまざまな部門の関与
中央集権的なリスクマネジメント体制を敷く欧米企業では、各国・各事業部への保険料の配分はリスクマネジャーの責任と権限で行われます。一方、日本企業ではリスクマネジメントに関する意思決定は社内のさまざまなステークホルダーから影響を受けます。そのため、会社全体の合計保険料が大きく下がるような提案でも、特定の国や事業部の保険料が上がるものだと、全体の賛同を得ることが難しく、グローバルベストという観点での運用に課題があります。
また、海上貨物保険はロジスティクス部門、会社役員賠償責任保険は法務部、上乗せ労災保険は人事部が担当するなど、リスクに対して異なる部門が責任を持つことから、リスクの集約や部門を越えた協力関係が構築されにくい構造があります。
(3) 財務経理部門のリスクマネジメントへの関与度合い
日本ではファイナンスの課題であるはずの保険・リスクマネジメントに対して、財務経理部門が主導権を発揮できていません。今後、日本企業がグローバル・スタンダードに準拠したリスクマネジメント体制を構築するには、財務経理部門が主導して権限・予算・人材を備えた中央集権的な組織を作ることが必要です。
このように課題の多い日本企業のリスクマネジメント体制ですが、最近は少し情勢が変わってきました。グローバルに展開する日本企業では、グローバルレベルでのリスクマネジメントを実践するために、リスクマネジメント部門の強化とリスクマネジャーの採用・育成を図る動きが見られるようになっています。