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再生可能エネルギー事業が直面する気候変動ファイナンスを最適化する

企業が気候変動ファイナンスの資金のギャップを乗り越え、再生可能エネルギー事業のリスク軽減と投資の促進方法を探る。

アジアの気候変動ファイナンスは8,000億ドルの資金不足:このギャップを埋める手段とは?

国際エネルギー機関(IEA)の推計によれば、2050年までにネットゼロを達成するためには、2030年までに年4兆ドル超のクリーンエネルギー投資が必要になります。2015年以降、世界のクリーンエネルギー投資額は83%増加しましたが、依然としてIEAが掲げる目標を大きく下回っています。

再生可能エネルギーへの移行は持続可能な未来に不可欠ですが、アジア地域では多くの案件が取締役会や投資委員会から承認を得る段階から資金調達の大きな壁に直面しています。 少なくとも8,000億ドルの資金不足に陥っていると推計されています。

今回は、マーシュのエネルギー・電力部門でリーダーを務めるベンジャミン・チャン氏とクレジットスペシャルティーズ・グロース部門でリーダーを務めるモーリッツ・クアールス・ファン・ウフォルト氏に、この課題をどう最適化できるかについて聞きました。

質問:取締役会が再生可能エネルギー事業の承認に難色を示すケースが多いのはなぜでしょうか?その最大の障壁は何ですか

ベンジャミン:投資収益率(ROI)の回収期間が長いことが大きな障壁となっています。

通常、再生可能エネルギー事業には多額の初期投資が必要となる一方で、その回収には数年以上を要します。 これは短中期の財務成果を重視する取締役会の方針としばしば対立します。一部の取締役はクリーンエネルギーが長期的なテーマになるか疑問視しており、構造的な転換ではなく過渡的な一局面に過ぎないと疑問視しています。

また、新しい技術に多額の資金が必要になるため、投資案件が成功するかの証明も困難です。このような背景が積み重なって不確実な印象が高まり、取締役会コミットが難しい状況に陥ってしまいます。

質問:財務面でステークホルダーが直面する主な課題は何ですか?

モーリッツ:課題には2つの視点があります。投資家 や金融機関は、戦略リスクのほかに金融面の不確実性に直面しています。特に新規や未実証のエネルギー事業では、借り手の信用力が大きな課題です。

大規模な再生可能エネルギー移行(エナジートランジション)プロジェクトでは、市場変動などの時価評価リスクが長期契約に影響を及ぼすため、開発業者や運営業者にとって管理が困難です。こうしたリスクは評価額の変動を招き、投資家や貸し手が重視する財務面の安定性や投資意欲にも影響を及ぼします。

直近の各種調査によれば、足元の新たな世界秩序において、地政学的リスクは企業や投資家に多大な影響を及ぼし得る重要なリスクや脅威になっています。マーシュのポリティカルリスク・レポート2025によれば、長年続いてきた貿易の前提がかつてないほど揺らいでいます。例えば、米中間や他の主要貿易相手国に代表される貿易フローの安定性・安全性に疑問符が付き、東南アジア諸国などでもサプライチェーンの信頼性が揺らいでいます。

また、多くのクリーンエネルギー技術が事業運営面の実績を欠いており、投資家にとってリスク度が高まっています。

質問:資金調達や政策変更が原因で失敗した再生可能エネルギー事業の事例はありますか

ベンジャミン:代表例は三菱商事が日本で3件の洋上風力発電案件から撤退したケースです。

建設コストが当初見積りの2倍以上に膨らみ、サプライヤーの変更や工程表の調整などを模索しましたが、実現可能な計画を策定できない状況に陥りました。

また、ミャンマーでは政権交代後に、26件に及ぶ太陽光発電案件の入札が取り消されました。これらの入札は民主政権下で承認されていた案件でした。ミャンマーでの入札取消は、ポリティカルリスクが生じれば、適切に設計された再生可能エネルギー案件であっても白紙になることを物語っています。

質問:開発業者や運営業者が再生可能エネルギーや気候変動適応策で資金調達を成功させるための方法とは

モーリッツ:IEAの調査によれば、2024年には東南アジア地域の電力需要が他地域の2倍速で増加しており、今後25年以内に倍増すると予測されています。 さらに、東南アジア地域における再生可能エネルギーの潜在的な発電量は、現状の50倍以上になると見込まれています。急増する電力需要を満たすには、アジア地域で大規模な再生可能エネルギー事業への投資が必要であることは明白です。

ただし、このように明確な電力需要が予想されるとはいえ、ベンジャミンや私が先に述べた資金調達や投資、ポリティカルリスクといった課題は依然残ります。

アジアの送配電網の整備に伴い、ADB(アジア開発銀行)は2025年10月に単独で100億ドルの拠出を公表しましたが、各国は継続的な規制要件やインフラ規格への準拠を求められており、その対応が将来的な投資リターンに影響を及ぼす可能性があります。 また、将来の政権が多国間投資を抑制して再生可能エネルギー事業を国有化し、エネルギー供給を管理する可能性もあります。しかし、投資家がポリティカルリスク保険を手配すれば、これら各種リスクに備える道が開かれます。

アジア地域では法人向け電力供給契約(PPA)の普及が進んでおり、2020年代初頭の数年間でAPAC地域の合意済みオフテイク量は2桁成長を記録しています。再生可能エネルギー案件において、PPAは資金調達や投資拡大に重要な役割を果たす契約として評価されていますが、長期的かつ重大な信用リスクおよび不払いリスクを抱えています。そのため、取引信用保険や不払い保険を活かしてそのリスクを軽減する必要があります。

質問:運営面で保険はどのように資金調達に貢献しますか

ベンジャミン:保険は、貸し手や投資家を躊躇させるリスクを転嫁することで案件の実現性を向上し、気候変動ファイナンス を成功に導くきわめて重要なツールです。 しかし、保険会社、とりわけアジア地域の保険会社は、損害請求実績の不十分であることや自然災害リスクの増大を理由に慎重な姿勢を見せる可能性があります。

マーシュの再生可能エネルギーチームは、物理的リスクの分野で専門的なアドバイスを提供するリスクエンジニアを擁しています。お客様と密接に連携して、リスクエンジニアリングや自然災害モデリングを含むリスクマネジメント戦略をオーダーメイドで策定し、事業のレジリエンスを強化しています。このような施策を講じることでリスクの発生率および深刻度を低減し、全体的なリスク水準を低下させて、有利な保険条件を引き出します。

気候変動における物理的リスクの詳細を確認する

質問:アジア地域における再生可能エネルギーおよび気候ファイナンスの展望について、どのようにお考えですか

ベンジャミン:気運が高まっています。 技術が成熟し、成功事例が積み重なるに伴って、取締役会は今までのリスクの見解を見直し、長期投資に前向きになるでしょう。

モーリッツ:金融面では、新たなリスク転嫁手法から官民セクターの連携に至るまで、さらなるイノベーションが予想されます。その背景として、一部の不確実性は残るものの、多くの企業や国々がエネルギーの安全保障や気候変動の影響を軽減するために、再生可能エネルギーに大きく注力している状況が挙げられます。例えば、シンガポールはカーボンクレジット市場の整備や二国間のカーボン取引協定の推進を継続しており、2025年後半までにこうした協定を9件締結しました。こうした動きが加速する中、マーシュは引き続き、お客様が資本を効果的に活用し、複雑な環境を乗り越えられるように重要な役割を果たしていきます。

マーシュが選ばれている理由

マーシュはグローバルなリスクアドバイザリーとして、地域に根差した知見を組み合わせ、アジア各国でクリーンエネルギー投資を支援しています。マーシュの再生可能エネルギーチームは、世界中で3,000件以上、累計650ギガワット超の再生可能エネルギー事業を支援しており、そのうちアジア地域では累計48ギガワット超の事業をお手伝いしています。Aクレジットスペシャルティーズ チームは1,000億ドル超の取引信用保険およびポリティカルリスク保険を保険市場で手配しています。お客様が取り組む再生可能エネルギー案件のリスク転嫁を支援し、ステークホルダーの合意形成を促し、投資ギャップの解消を目指すことで、再生可能エネルギー案件と資本市場とのギャップを埋めるべく尽力しています。

再生可能エネルギー事業の資金調達を円滑に進めるために、マーシュの再生エネルギーおよびクレジット分野のスペシャリストにぜひご相談ください。

Dogo Aizawa

相澤 道吾

マーシュ ブローカー ジャパン

Kohsuke	Ikeda

池田 康祐

マーシュ ブローカー ジャパン