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中東情勢の悪化による海上輸送ルートの混乱:サプライチェーンのレジリエンス強化に必須な3つの対策とその理由

イランにおける紛争の緊迫化および中東地域での地政学的緊張の高まりは、世界貿易に広範な影響を及ぼしています。重要な海上航路が混乱する中、その影響は船舶の運航、保険市場、ならびに世界各地のサプライチェーン全体に波及しています。

影響が特に大きい航路がホルムズ海峡です。同海峡は海上輸送における主要な要衝であり、中国、インド、日本、韓国を含むアジア市場向け原油の約80%の通航に使われています。攻勢が激化して以降、数千隻の船舶が迂回、または運航停止や海上待機に追い込まれており、同海峡の通航量は最大で94%減少したと報告されています。

湾岸地域の緊迫化は、船舶運航、海上保険市場、ならびにサプライチェーンに直接的な影響を及ぼしています。世界の貿易航路が絶えず変化する中、海運業界のこのような混乱は、もはや事業環境において恒常的になりつつあることを認識すべきでしょう。

海上輸送の混乱が、海上保険、貨物、物流に意味するもの

重要海上輸送ルートの寸断により、船主、荷主、物流企業はさまざまな課題に直面しますが、中でも最大の課題は、サプライチェーンの混乱です。ホルムズ海峡における安全保障リスクの高まりは、同海峡が世界の原油輸送量のおよそ4分の1を担う海上交通の要衝であることから、中東地域にとどまらず広範な影響を及ぼします。

同時に、この紛争は海上保険市場の不安定化を高めています。ハイリスクエリアを航行する船舶戦争保険の割増料率は、船舶価額の約0.2%から1%超へと急騰しました。仮に船体保険金額が1億米ドルの貨物船の場合、1航海あたり少なくとも100万米ドルの追加コストにつながります。

船舶戦争保険は、戦争リスクが高い特定の「除外水域」である場合、7日単位で引き受けられます。また、世界情勢の急速な変化に対応して、保険会社は「48時間/72時間の解除通知」を発動しており、リスクを再評価し保険料を調整する可能性があります。

中東情勢の混乱は、保険費用のみならず世界的なサプライチェーン全体に影響をもたらしています。海運会社による航行の一時停止や、港湾における船舶の混雑により、迅速な輸送を求める企業に応えて、航空貨物需要が上昇する可能性もあります。また、納期予測の不確実性により、企業は在庫維持費の増加に直面する恐れがあります。加えて、大手コンテナ船が封鎖地域で船舶からのコンテナの荷下ろしを始めると特定商品の供給過剰などで需給バランスが崩れ、小売業界全体で商業的損失を招くリスクがあります。

今回の混乱は、2024年に紅海において商船が攻撃を受け、多くの海運会社がスエズ運河の通航を回避して喜望峰経由へ迂回を余儀なくされた事象を彷彿とさせます。迂回による航海日数延伸は燃料費の増加を招き、代替寄港地における港湾混雑を発生させました。その結果、荷主および物流事業者は、輸送遅延、運賃高騰、ならびに納期見通しが不確実になるなどの影響を受けました。

リスク環境の変化は、マーシュのグローバルリスク報告書における指摘より、さらに広がる傾向を示しており、世界秩序の変容で生じる地経学的対立は、世界中の企業が直面する最も重大なリスクのひとつとなり、企業のレジリエンス構築はサプライチェーンやリスク管理担当者にとって優先事項になったと言えるでしょう。

変化し続ける海上輸送やサプライチェーンリスクに、企業はどのように対応すべきか?

不確実性が一段と高まる環境下で効率的に事業を遂行するためには、サプライチェーン全体にわたる可視化を強化するとともに、焦点を絞った保険戦略およびリスクマネジメント戦略を講じる必要があります。以下の3つのアクションは、企業がサプライチェーンのレジリエンス強化する上で有効です。

1. データドリブンの情報と分析を活用してサプライチェーンのレジリエンスを強化する

組織は、地政学的動向、海上輸送ルート、オペレーション上の中断に関するリアルタイムの分析を活用すべきです。タイムリーなインテリジェンスへのアクセスにより、企業は新たに顕在化しつつあるリスクを早期に特定し、混乱が深刻化する前に緊急時対応計画を発動することが可能になります。

マーシュの「World Risk Review」「Sentrisk」などのソリューションは、タイムリーな地政学およびリスクに関する情報を提供し、不確実性が高い局面においても明確な見通しを持つことにより、企業が先手を打って計画を立て、迅速に方針転換できるよう支援するプラットフォームです。

2. 船舶保険、貨物保険の契約を見直す

企業は、変化するリスク環境に適した補償を維持するため、船舶保険および貨物保険の補償範囲の見直しが必要でしょう。戦争リスクに関する保険料率や補償条件が変動しやすい状況において、信頼できる保険ブローカーと連携することで、リ自社のリスクをより的確に把握し、適切なリスク管理を維持することが重要です。

3. 新たなニューノーマルに備えたレジリエンスを早急に構築する

リスクマネジメント戦略の実践と、高度なプラットフォームの活用、戦略的な輸送ルートの分散、堅牢な保険プログラムなどを通じて早期にレジリエンスを構築する企業は、一歩先の混乱を見据えた対応ができるため、サプライチェーンを通じて事業継続性が維持され、より有利な立場を確保できるでしょう。

“海運業界が混乱を経験するのは、今回が初めてではありません。地政学的緊張が世界の貿易航路に影響を与え続ける中、企業は潜在的な損失の最小化を目指し、サプライチェーンのレジリエンスを事業運営全体に組み込む必要があります”

Michael Walls

Marine, Cargo and Logistics Leader, Marsh Risk Asia

 

マーシュの強み

マーシュは、アジア各地の主要な貨物荷主、運送業者、港湾運営会社、物流事業者と連携し、複雑化する海事リスクの管理を支援しています。世界で240社を超える港湾・埠頭関連事業者をサポートしており、世界のLNG船隊のおよそ50%について保険ブローカーを担っています。

サプライチェーンのレジリエンス強化、複雑化が進むリスク環境に対する戦略、対策について、こちらからお問い合わせください:

FAQ:中東情勢に起因する貿易の混乱および海上輸送リスク

2026年3月5日に更新

以下の「よくあるご質問」は、変化するリスク環境に対応する船主、荷主、用船者ならびにリスクマネジャーから寄せられる質問にお答えするものです。

1. 船舶戦争保険を付保せずに、中東向けの貨物輸送を継続すると、どうなりますか?

高リスク海域において、船舶戦争保険を付保せずに運航・輸送を行うことは推奨されません。ただし、輸送を実施するか否かは、保険の有無のみで判断すべきではありません。

たとえ貨物について戦争危険に対する保険手配が可能であっても、船主および荷主は船舶が航行海域の安全性を慎重に検討する必要があります。特にホルムズ海峡を含む高リスク航路を通航する場合、攻撃、損傷、その他、運航上のリスクに船舶がさらされる可能性があります。

企業は輸送おこなう前に、乗組員の安全確保、人命損失の可能性、汚染事故などの環境リスク、事故が企業の評判に与える影響、航行の可否など、さまざまな要素を総合的にリスク評価する必要があります。たとえ保険によって財務的な補償がされたとしても、紛争の影響を受ける航路に伴う物理的リスクを完全に排除することはできません。

2. 湾岸地域の航路が混乱した場合、代替ルートはありますか。

湾岸地域を運航する船舶にとって、代替ルートは限られますが、すでに湾内の状況が悪化した場合、特にホルムズ海峡の航行に危険が生じる場合には選択肢が少なく、こうした状況下では、情勢の推移を注視しながら、航行を一時停止させる場合があります。

3. 中東情勢は、世界の海上輸送ルートおよびサプライチェーンにどのような混乱をもたらしますか。

混乱が長期化した場合、中東地域から輸出される原油および液化天然ガス(LNG)などエネルギー貨物に影響が及ぶ可能性があります。

エネルギー貨物の輸送フローが滞ることで、サプライチェーンにさらなる負荷が高まるほか、リスクの高まりにより輸送運賃や輸送コストの上昇につながる可能性もあります。

4. 中東情勢に伴う海上輸送の混乱は、アジアではどの国が最も影響を受ける可能性がありますか。

アジアの経済圏はエネルギーの輸入に対して湾岸地域への依存度が高く、特に中国、日本、韓国などの国々は、中東からの原油や液化天然ガス(LNG)の輸入に大きく依存しています。LNGの海上輸送能力は限られており、専用の設備が必要なため、中東地域での混乱が長引くと、これらの国々のエネルギー供給にさらなる負荷がかかる可能性があります。

5. 航海/貨物輸送中に、船舶戦争保険が解除されたらどうなりますか。

保険者が解除通知を発出する前に航海/貨物輸送が開始されていれば、多くの場合は開始前の保険条件が引き続き適用されます。ただし、補償範囲は保険ごとに異なるので、船主および荷主は、保険証券および約款等の保険書類を確認のうえ、保険ブローカーまたは保険会社に相談してください。

6. 船舶戦争保険が解除された場合、再度加入することは可能ですか。

船舶戦争保険は対象航路の状況によって、割増保険料により再度加入できる場合があります。現在の中東情勢を踏まえると、船舶戦争保険よりも貨物保険のほうが引き受けを継続しやすい傾向にあります。また、被保険者が特定航路を補償対象外とする「航路除外」を設定したり、特定の高リスク海域の通航に際して事前承認(事前通知・同意)を求める場合があります。

7. 船舶戦争保険は、通常どのくらいの期間で補償されますか。

現在の情勢を踏まえ、多くの保険会社は、除外地域の船舶戦争保険を短期間(一般的には7日間単位)で引き受けています。これは、状況の変化に応じてリスクと保険料率を再評価できるようにするためです。

8. 紛争下において、船主および荷主はどのようなサプライチェーンリスク管理が必要でしょうか。

海上輸送に関与する企業は、以下を含む複数の予防的な措置を検討することが必要です。

  • 保険補償範囲や要件の見直し
  • 航路に影響を与える地政学的動向のモニタリング
  • 代替物流戦略(代替ルート/代替輸送手段等)の検討
  • 用船契約および不可抗力条項等の契約条項の確認
  • 海運パートナー、保険ブローカー、保険会社との緊密なコミュニケーションの維持

情勢は流動的であるため、企業は状況の変化に応じて、オペレーションおよびリスクマネジメント戦略を適宜見直しできる体制を整えておくことが必要です。