アジアでは、主に自然災害や感染症リスク、熱中症などに起因する労働不足やサプライチェーン途絶などを背景として、保険で補償されていないリスクが約1兆米ドルに上るとされています。多くの企業・組織は、気候変動や異常気象に関連する事象において物理的リスクの高まりに直面しています。マーシュの「Climate Adaptation Report 2025」によると、過去3年間に異常気象の影響を受けた回答者の割合が最も高かった地域はアジアで、その割合は73%に達しました。しかし、2025年にアジアで発生した自然災害による総損失730億米ドルのうち、保険で補償されていたのはわずか12.3%にとどまりました。
補償の不足は、事業中断による損失に及んでいます。シンガポールの中小企業経営者を対象とした調査では、74%が事業中断(BI: Business Interruption)による収入減少を懸念していることが明らかになりました。しかし、このリスクに対して保険に加入しているのはわずか23%でした。
企業は、一般的なインフレや商品価格の上昇、事業所の拡張、設備更新、サプライヤーの変更、新たな収益源の追加、あるいは事業運営モデルの変化などについて、正確な価格申告を怠ると、損失発生時の保険金支払いが減少する可能性(これを一部保険といいます)があります。同時に、自然災害リスク、再調達コスト、サプライチェーンなどの損害規模は急拡大することが多く、事業の再建に影響を及ぼします。
企業は、保険更改前に資産を再評価し、BI保険の補償限度額を適正化し、より有利な引受キャパシティを確保することが求められます。
補償ギャップを解消するための実践的な3つのステップをご紹介します。
正確な申告額は、包括的なPDBI保険における基礎であり、極めて重要な要素です。適切な評価を行うことで、各資産に正しい価額を付し、補償ギャップを最小化し、競争力のある保険条件を確保し、保険金請求時の結果を改善し、最終的には一部保険や超過保険を回避することができます。もし資産価額が古いまま、あるいは不正確であれば、損失発生時の保険金請求や示談結果に悪影響を及ぼす可能性があります。
マーシュのBIリスクおよび申告額のレビューにより、多国籍企業が大幅な保険金減額を回避した事例
ある多国籍企業は、正式な評価プロセスを経ることなく、自社内で資産価額を申告していました。その後、マーシュが評価を実施したところ、申告価額が約35%過少であることが判明しました。同一保険年度内に、この企業は大きな損失を被り、数百万ドル規模の保険金請求を行いました。事前の評価がなければ、保険金は減額調整され、実際の損失額を大きく下回る認定金額となっていた可能性がありました。
BI保険の補償では、申告する内容が実際の売上高やコスト、主要取引先との関係性を正確に反映していることが極めて重要です。定期的にBIレビューを行い、補償限度額や復旧期間が実際の事業運営に見合っているか確認しなければ、一部保険または超過保険に陥り、補償内容の不整合が生じることで、損失発生時の保険金支払いが減少するリスクがあります。
マーシュによるBIレビューにより、日本の製造業で200%超の補償ギャップが判明した例
実例として、ある日本の製造業では、BI保険の対象にすべき全ての関連事業体が含まれていませんでした。マーシュとともにBIレビューを実施した結果、従来申告されていたBI評価額が実態に比べて200%以上過少であることが判明しました。このレビューにより、同社は復旧対応に対する確実性を高め、リスクマネジメント・プログラムへの信頼を深めることで、財務的なレジリエンスを強化することができました。
評価額の適正化と精緻なBIデータは、保険会社に対するリスク提示を強化します。一方で、補償条件や利用可能な引受キャパシティは、地域、用途、リスクの集中度により大きく異なります。したがって、現行の市場の引受能力と保険会社のリスク許容度を踏まえた戦略的な保険手配が不可欠です。とくに自然災害リスクのエクスポージャーが変動する場合には、その重要性が一層高まります。
マーシュの保険手配に関する専門性により、タイの製造業企業が洪水・火災リスク下で更改成果を改善した事例
タイに拠点を置くある製造業は、洪水および火災リスクを抱えており、保険会社の引受意欲が限定的で、保険料の上昇にも直面していました。マーシュのプレイスメント専門チームは、顧客とワークショップを実施して市場環境を確認し、同社が進めてきた予防的リスク管理への投資を強調する更改戦略を共同で策定しました。これにより、リスクプロファイルの改善を保険会社に示すことが可能になりました。また、Marshは引受審査(アンダーライティング)に関する協議や再保険会社との折衝を支援するため、リスクエンジニアリング調査も調整しました。その結果、同社は保険プログラムを再構築し、コスト面で大きな改善を実現しました。