1 The Washington Post (2023): https://www.washingtonpost.com/transportation/2023/04/28/infrastructure-projects-time-budget/
世界経済フォーラム(WEF)が公表したグローバルリスク報告書2024年版によると、アジア地域の経営幹部の多くが経済動向に強い懸念を抱いています。アジア圏の11ある市場(国・地域)のうち7市場で、景気後退がトップに、次いで人材不足やインフレーションといったリスクが指摘されています。
アジア地域の経営幹部のうち、その6割以上が上位の5つのリスク5項目の中に経済リスクを含めています。一方、世界全体を見渡せば、誤報・偽情報を筆頭に、異常気象や格差社会、不安定なサイバーセキュリティ、国家間紛争が挙げられ、異なる様相を呈しています。
注目すべきリスクが並ぶ中、企業は、地政学的リスクや社会的リスクが異常気象に伴う現象を悪化させかねない点を念頭に、各種リスクが世界でどのように連鎖反応を起こし得るかを理解する必要があります。
スエズ運河は紅海と地中海をつなぐ交易路として、世界の貿易の10~15%、世界のコンテナ輸送量の30%を占めています。紅海での地政学的緊張に端を発した昨今のサプライチェーンの遅延は、異常気象に伴うパナマ運河の長期航行制限を受けてさらに悪化しています。
船舶保険の保険不履行(BoW)やワランティ違反(航路定限定違反)補償においては、航路変更や遅延が余儀なくされた結果、7~14日の単一航海の補償に関する保険料率が上がっています。貨物市場でも、紅海を通過する航行に対して、割増料金を請求するような動きがあります。
企業はまた、燃油代や輸送料の上昇に伴うコスト高騰、さらにはセキュリティリスクが高まる中で航海中の警備手配の必要性に直面しています。部材や 部品調達が不安定であることは、エネルギー市場、食品・農業、金属、製造業など、特に「製品から市場へ」のライフサイクルが短い産業に大きな影響を与えます。
マーシュは、商品の輸送や航路、請負業者の利用に応じて、賠償の度合いを以前よりも柔軟に設定できるように、顧客に対して貨物運送業者との契約見直しを勧めています。
リスク転嫁の観点から、物的損害がなく遅延だけ生じた場合に対しても、企業は自社の貨物海上保険証券の契約条件を見直し、航路変更ならびに航海の終了までに要するコストを対象に補償範囲の拡大を検討する必要があるでしょう。
企業が損害を直接受けた場合は、保証金請求に精通したマーシュの専門チームが貴社の利益を守るべく支援いたします。
世界的なリスク環境が不確実性を増す中、サプライチェーンや海外事業が度重なる混乱や規制の変更にさらされている企業は、各国・地域のリスクの変化を詳細に把握して新たな脅威を特定し、自社の経営戦略を評価し、且つリスクに適応させる必要があります。
上流における遅延の先読みを怠ると、エネルギーや原材料といったコモディティ商品をはじめ、数量減少や価格高騰に直面してしまいます。下流では、契約履行や納入の遅延、物流コストの増加、需要の変動や減少に見舞われることもあるでしょう。
通常、サプライヤーを多様化することでサプライチェーンのリスク軽減を図る事例が多く見受けられます。多種多様なサプライヤーを利用するのであれば、企業はサプライチェーンのリスクマッピングを行ったうえで、混乱の影響を特に受けやすいサプライチェーンの「ウィークポイント」を個々に理解する必要があります。また、新たな拠点先等での潜在的なインフラの問題(電力の供給状況や上水の供給、輸送ネットワークなど)や複雑な規制要件(現地の最低賃金や労働規約など)のように、放置してしまうと重大なリスクに発展し得る事項を考慮しなければなりません。
新たな拠点への投資時に必須の事項としては、上記のほかに、ペイ・エクイティ(同一価値労働同一賃金)、スキルの有用活用、タレントモビリティ(人材流動性)という3つの面で適切に人材戦略を調整することが不可欠です。
サプライチェーンのマッピングに加え、事業中断に発展し得る地政学的状況も特定するため、ポリティカルリスクのエクスポージャー評価も有効です。
マーシュは顧客支援の一貫として、購買調達先を失った場合に受ける影響度のモデル化に留まらず、災害時や非常時の対応計画やセキュリティリスク対策といった策定もお手伝いしています。
例え小さな混乱でも重大な影響になり得ます。そのためマーシュではリスク管理対策を立てるにあたり、商品価格などで対応優先順位を決めるべきではないことを、お客様にお伝えしています。
世界的に地政学的緊張が高まる中、サプライチェーンの混乱は、アジア圏の建設業界にも影響を及ぼしています。工期通り・予算通りに完了した大型プロジェクトはわずか8.5%に留まっており1、原材料の供給不足や、支払の遅延ないし不履行、人材不足や流動性の問題のほか、国が供給するインフラプロジェクトの中断などにより、遅延状況は悪化をたどる一方です。
さらに、経済低迷や武力紛争、内紛、政府の保護主義政策、国内の選挙結果などにより、建設に関する規制や投資環境が変更され、建設プロジェクトの運営業者や請負業者に深刻な財政的影響を及ぼすおそれがあります。
建設プロジェクトごとに異なる課題や検討事項があるため、運営業者や請負業者は保険ソリューションを活用して適切なリスク管理を行う必要があります。
そこでマーシュでは、保険仲介業者やリスクアドバイザー、専任の保険請求担当者、フォレンジック会計チームらと力を合わせ、アジアで建設プロジェクトを進める運営業者や請負業者を積極的に支援しています。モデリングによるリスクの定量化や保険市場のリスク水準の効果的な算出や戦略的なリスク分散の結果、建設プロジェクトの遅延に伴う損失の軽減に貢献しています。
マーシュは、専門家による助言や、問題解決に向けた明確なフレームワークの提供により、お客様のニーズに沿う着実なリスク管理やリスク転嫁などについてのご提案が可能です。また、ステークホルダーからの信頼を獲得して強固な協力関係を築き、たとえ遅延が発生してもリスクを最適化できるようにサポートしています。
1 The Washington Post (2023): https://www.washingtonpost.com/transportation/2023/04/28/infrastructure-projects-time-budget/
アジアでは、社会的緊張や政治的緊張が企業の投資判断に影響を及ぼす重要なリスク検討事項であり続けています。こうした緊張が人材戦略に影響し、不透明な法的環境や規制環境を生み出すことがあります。特に、変化の激しい市場で人材や業務、資産、投資に携わる企業は、収用や為替交換制限、送金不能、ライセンスの取消といったリスクに遭遇するおそれがあります。
グローバルに事業の拡大を計画している企業は、カントリーリスクについて、ERM(エンタープライズ・リスクマネジメント)やPRI(ポリティカルリスク保険)を活用することが可能です。詳しくはこちらの動画をご覧ください。
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